ホーム創作日記

 

2/3 本棚探偵の冒険 喜国雅彦 双葉文庫

 
 いやあ、古本にはまらずにすんで良かったぁ〜! 心からつくづくそう思
えた地獄の(褒め言葉(笑))エッセイ集。「ほんの一歩踏み違えてたら」
という、仮想世界の自分が見えたような気がしたよ。魔境への入り口なんて
すぐ身近に幾らでもあったんだものね(いや、過去形ですらなく)   

 同病相憐れむ、な人はその憐れみと深い同盟意識に癒されることだろう。
地獄の一歩手前で立ち止まることの出来たマニア魂は、ほんのちょっとだけ
「もし」を惜しみつつも、その辿り着いていたかもしれない行く末を見るこ
とで、自分が救われていたことを改めて知り、きっと癒されることだろう。
幸いにもそこまでのマニア魂を持たずに過ごせてきた人々にとっては(本書
の読者層ではむしろ少数派だとも思うのだが)、突き抜けた凄さはむしろ哀
しみであったり、おかしみであったりすることに癒されることだろう。 

 いやいや、裏表紙に「癒される」と書いてあるからといって、その観点で
のみ本書を語るのはあまりにも片手落ち過ぎよう。だってこれはべらぼうに
面白い、、、というか、べらぼうに可笑しいエッセイなのだから。苦笑であ
ったり、爆笑であったり、はたまたその間にあるあらゆる笑いを体験できる
かのような絶品。古本指数がなくても充分楽しいと思うし、勿論高ければ高
いだけ、幾らでも面白さはアップしていくはず。採点は
7点だ。    

  

2/7 BG、あるいは死せるカイニス 石持浅海 東京創元社

 
 なかなか斬新な新鋭作品を次々に放ってくるミステリ・フロンティア。
今回は新鋭石持氏の「タッチ」風味がほのかに漂う青春SFミステリだ。

 過去3作とも個性的な閉鎖状況を描いてきた氏だが、本作はさすがに違
う。趣向の統一という、ミステリならではの遊び心は楽しいものだが、敢
えてこだわるほどのものでもないだろう。状況を活かしたサスペンス性が
上手く描けているわけではないし。しかし、既に個性として認知されてい
る(と思う)ので、閉鎖状況ミステリもまだまだ書いて欲しい。   

 ただ、そのサスペンス性を別にすれば、一作ごとに筆力は上がっている
ように思う。今回もユニークな設定のSF世界を、違和感なく巧みに描出
してみせた。安心して読めるエンタテインメント作家の仲間入りかも。

 ミステリ性やロジック度はそれほど高くないだろう。BGにしても、自
分は
BOY&GIRLの略で、半陰陽(両性具有)のことだと思って予想
を外したが、それほどの意外性が待っているわけでもない。SFミステリ
”小説”としての面白味は強いが、自分の採点は
6点となる。    

  

2/14 硝子のハンマー 貴志祐介 角川書店

 
「fの魔弾」の感想で「昨年度は密室の年だった!」と書いたが、その代表
的傑作が本書だろう。島荘が求める謎の幻想性には欠けるかも知れないが、
氏の提唱する「21世紀本格」という概念を立派に具現化した作品なのでは
ないだろうか。それがいわゆる島田チルドレンではなく、ホラー作家の肩書
きが冠頭に来る作者から生まれたことに、ちょっと驚きを感じた。   

 まさしく”現代の密室”とも言うべき、力強い解決だ。明らかに斬新。滅
多に見られないタイプの解法で新規性が高く、多少の知識が必要とされても
気にならない程度の納得度を有している。              

 しかし本書の最良の点は、実はその解決自体にあるのではない。そこに至
るまでに構築される幾つもの仮説の優秀性と、その一つ一つを徹底的に検証
していく論理性にある。”謎”と”解決”がミステリとしての肝であるのは
当然だが、その間の”過程”がつまらなければ全てを台無しにすることもあ
る。また”謎と論理と解決”というお定まりの表現もあるように、この”過
程”段階における一番重要な要素とは、間違いなく”論理”性なのだ。本書
はそこがべらぼうに面白い。                    

 キャラ萌えするほど主人公コンビのキャラが立っているわけではないのだ
が、探偵役のユニークな設定が本書においてはバッチリ決まっていて、それ
ぞれの仮説の論証で非常に有効に機能しているのもいい。       

 根っからの本格者としては、この2部構成は好きな構成ではないのだが、
密室物としての新規性の高さを評価して、採点は
7点とする。例年ならば、
本格ミステリ大賞の候補作に選ばれても不思議のない出来映えだろう。 

  

2/16 アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎 東京創元社

 
 私にとってはこれが初伊坂。初めての作品として選んだのは、本作が意外
性に富んでいるとの評を幾つも見受けたせいである。         

 ところで、ミステリにとっては”事前の評判”というのは、往々にして諸
刃の剣である。それがなければ手に取ることなく通り過ぎてしまうかもしれ
ないが、知れば知ったでそれだけで予想がコントロールされ、味わえたはず
の面白味が減じてしまうこともある。                

 私にとっては本書がそうであり、未読なのにこれを読んでる人があれば、
あなたもそうなるかもしれない。普通コレは読めないよ、と思う。かなり評
判になるくらいの”意外性がある”ことさえ知らなければ、それほど違和感
なく読み進められて、驚くべき場面で驚くことが出来たと思う。しかし、構
えていた身としては、不幸なことにコンナモノまで読めてしまった。騙され
てこそ嬉しい、被虐的快感こそがミステリの華なのに。        

 といっても本書の良さはそれ以上に小説としての面白味にあるのだろう。
個人的に受けた雰囲気は村上春樹のそれとかなり近い。格好良さととぼけた
味を備え持つ作風で、前者風味が強いのが本多孝好で、後者風味が強いのが
伊坂というようなイメージだ。両者とも一作のみしか読んでない状態での印
象なので、とんでもなく的を外していたらゴメンなさい。       

 登場人物への共感はそれほど感じられなかったが、小説として惹き付けら
れる要素は充分に感じられる。総合的には
7点あげちゃおう。     

  

2/17 ドワーフ村殺人事件
 
          安田均、高井信 富士見ファンタジア文庫
 
 テーブルRPGの世界では知らない人のない(かどうかはよく知らない)
ソード・ワールドを舞台にしたファンタジー・ミステリ。某所で本書(92
年刊行)の存在を知り、非常に興味を抱いたのだが期待外れ。     

 ファンタジーとミステリは相性が悪いなんてされてるが、私はそんなこと
はないと思っている。きちんと世界内部でのルール設定さえ出来るならば、
幾らでも幅の広げようがある。ただお互いの志向性をうまくクロスできる書
き手という、人材に欠けているだけなのではないだろうか。      

 本作を私が全く買えないのもそこに原因がある。自分も当然名前をよく知
っている安田均であるが、本作を読めば全く”本格”という志向を持ち合わ
せていないことがよくわかる。「出来ていない」のではなく、「やっていな
い」だけなのだ。そもそもそういう意志で作られていないものを、本格ミス
テリという視点や期待で読んでしまった私の方が悪い。        

 基本的に「ミステリ」の解釈に大きくズレがあるようだ。事件と解決があ
って面白ければミステリ、という広義の解釈にはどうしても私は乗れない。
最終的な結論ありきなのはミステリもRPGも同じはずなのだが、必然を連
ねて辿り着くべきミステリと、幾つもの選択肢と偶然をコントロールして辿
り着くRPGとの、方法論の違いが如実に表れているのかもしれない。 

 採点は5点だが、本作に対してよりは読み手としての私への評価かな。

  

2/22 六色金神殺人事件 藤岡真 徳間文庫

 
 完璧に売り方を間違ってる。出版当時の帯の付いていない古本を購入した
ので、ひょっとしたら帯でフォローされていたのかもしれないが、このまま
だったらあんまり。この題で「伝奇ミステリー」と書かれてたら、そうなん
だろうとしか思えないやん。編集者ちゃんと中身理解してるよね、ひょっと
して本当にそうだと思ってたりして、などとあらぬ疑問を抱くほど。  

 いやいや勿論、わざわざ藤岡真を引っ張り出してくるんだから、本気なは
ずがないのは自明。とすると、こう謳っておいて、まさか本当にそんなお話
なのかと読者を疑心暗鬼におとしめて、顎の外れる驚きを減じるまいという
超マニアックな読者向けの超高等戦略に違いない(本気度18%)   

 何故素直に「バカ本格」だとして売ってくれなかったのか? そうしたら
もっと早く私も藤岡真に手を染めることが出来ていたかもしれないのに。こ
の売り文句の真相は、藤岡真を知っている読者は当然買うに違いないんだか
ら(大袈裟度70%アップ)、それ以外の読者も引っ掛けちゃおという姑息
でオトナな戦略なのだろう(本気度51%) でも、それに引っかかった伝
奇ミステリファンの大半は、きっと怒るっちゅうねん。        

 とにかくバカさは超弩級。個人的には細かい手練が生きる処女作よりも、
豪快大技一発すくい投げのこちらの方が好み。日本ミステリ百選の裏ベスト
二十傑に入選決定。例年のベスト級作品。採点は余裕の
8点。     

  

 2/25 羊の秘 霞流一 祥伝社ノン・ノベル

 
 見立て、トリック、ロジックという三題噺を語る(騙る?)落語家。それ
が自分にとっての霞流一のイメージとなる。ブラック系のユーモアでくるみ
ながら、それら三要素をゴリ押ししてくる。自然に溶け込まそうなんて意図
は当然そこにはない。だって三題噺なんだから。直接の言い方はしないまで
も、作品として「ほら、ここでっせ」と暗に主張しているほど。    

 見立てに関しては、本作は若干弱かったと思う。羊だと結構モチーフは沢
山ありそうに思うのだが、かなり苦し目の見立てや、あまりよく知られてい
ないようなものが選ばれていたように思う。             

 トリックは相変わらず凄まじい。バカミス系のトリックが何度も炸裂して
いる。現代作家の中では、柄刀一と並んでピカイチのトリックメーカーだと
思う。ただし、今回はわかりにくいのが難点。解決を読む前にこれを読み解
ける読者などいやしないだろう。                  

 ミステリの読み手による評価では、意外にトリック以上に評判良かったり
する氏のロジック。本作でもその良さは健在。一番の読みどころだろう。

 充分な評価要素はあるはずだが、いまいち乗り切れなかったかな。事件や
事件の裏の陰湿さのためか、ギャグっ気も薄かったせいか。採点は
6点

 

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