ホーム創作日記

9/1 いつか、ふたりは二匹 西澤保彦 講談社ミステリーランド
9/2 探偵伯爵と僕 森博嗣 講談社ミステリーランド
9/3 魔女の死んだ家 篠田真由美 講談社ミステリーランド

 
 またまた三日連続ミステリーランド三昧。あまり多く語るべき内容がない
ので、三冊まとめての感想。例によって、いずれも子供向けにふさわしいか
と云うと、それなりに難しい面を持っているものばかり。この叢書に対して
そういう視点で語るのは、ふさわしくないのかもしれないね。     

 まずは西澤保彦。事件自体はかなり陰険な雰囲気でダークなんだけど、設
定や語り口は爽やかで、読後感はこの中で一番いいと思う。キャラクタ的に
も魅力があって、ラストの想像はついても心地良さがあるのだ。閉鎖された
ベランダからの脱出シーンが本書の白眉。叢書中比較的上位の
6点。  

 続いては森博嗣。大人向けのテクニックで、最後の逆転を見せる。ミステ
リとしての基本技術の子供向け導入編か。この逆転で事件の様相にも微妙に
捻りを加えるのだが、そこが却って読後感の悪さにつながってしまう。ダー
クさがより深まって、ますます子供向けからの逸脱。低めの
6点。   

 最後は篠田真由美。幻想味と耽美の世界。或る仕掛けに関しては容易に予
想の付くところだが、事件の真相自体にはなかなか辿り着けまい。中盤の証
言の一つ一つで、人物像を幾層にも描いておいて、この結末へ導く技術。雰
囲気のある作品でラストも美しい。叢書中でも上位に位置する作品で、高め
6点。篠田、西澤の順で、ちょっと間が空いて森というのが私の評価。

  

9/8  麻耶雄嵩 幻冬舎

 
 またもややったぜ、麻耶雄嵩! 凡百の(失礼!)ミステリ作家達が、揃
いも揃ってほんの微妙な味付けだけで相も変わらぬ手法を反省もなく飽きも
せず書き散らかし垂れ流していく中で(うんざりする気持ちを長文で表して
みた)、それを完全に逆手に取った真逆の陥穽(トリック)。     

 こういう使い方があり得たのかと誰もが大仰天必至。このアイデアにこん
な新規のパターンを産み出すなんて、あり得ない奇蹟とすら思えるほどだ。
何度も書いている気はするが、麻耶雄嵩の前に麻耶雄嵩は無し、麻耶雄嵩の
後にも麻耶雄嵩は無し。まさしく孤高の感性で、本格の最先端を切り拓く麻
耶クンの本領発揮。ほんっとに大天才だと思っちまう。        

 読み終わった人同士、思いっきりネタバレで話したくなる作品だろう。事
件の真相自体は大して面白くはないのだが(笑)、作中に仕掛けられる二つ
の大トリックは、ミステリファン必見。最初からある揺らぎが気になってい
たので、一つの解決時点ではそれほどの意外性は感じなかった。しかしまさ
かそれがもう一つと密接に融合して、いずれも欠けることが許されない構造
になっていたなんて絶句の着想。奇想ミステリファンは決して読み逃しては
いけない、本年度最高級の贈り物。絶対に凄いって!         

 これで事件の謎自体も凄みを持っていれば9点挙げたいところだけど、そ
こには残念ながらそれほどの意外性はなく、総合としては
8点。    

  

 9/12 追憶のかけら 貫井徳郎 実業之日本社

 
”悪意”というものをネッチリと描き込んだ小説作品であり、構図を何度も
ひっくり返してみせるどんでん返し型ミステリでもある。「悪意」という、
そのものズバリの作品を書きながら、切なさ系の書き込みも上手い東野圭吾
の作風を彷彿とさせる。また、この繰り返し繰り返し畳みかけてくるどんで
ん返し構造は、連城三紀彦の筆力をも充分に想起させる。ミステリと小説と
を両立させ得る、実力派作家としてのポテンシャルを見せつけた佳品。 

 作中作がそのまま作品中に組み込まれているのだが、旧字旧仮名遣いの文
章にちょっと構えてしまうところだろう。しかし、これが驚くくらい読みや
すい。悪意に翻弄され、誰もが信じられないくらい疑心暗鬼になってしまう
様も、そのまま読者の心情につながるものだろう。無邪気とすら思えるほど
の邪気の底冷たさも上手いし、感動的な締め括りで読後感も良い。作家とし
ての実力がじんわりと敷き詰められているようだ。          

 もちろん、ミステリとしても充分に読ませてくれる。非常に丹念に構成さ
れたどんでん返し構造は評価に値する出来映え。総合的に非常に完成度の高
い作品であることは間違いない。採点も
7点としよう。        

  

9/14 φは壊れたね 森博嗣 講談社ノベルス

 
 Qシリーズの新登場。QurageQsuke(海月及介)とでも書くの
だろうか。シリーズ名称人物が探偵役という法則も健在のようだ。   

 さて本作はミステリとしては非常にシンプル。言い切ってしまえば「どう
っでもいいっ」程度の作品。本シリーズもパズラーとしては低調であること
が、細木数子でなくても予言できちゃうだろう。そろそろ個人的には森博嗣
を「切る」時がやって来たのかもしれない。             

 結局Vシリーズはシリーズ全体の仕掛けに驚かされただけで、個々の作品
としては見るべきものはなかった。勿論キャラクタがどうのこうのといった
要素は、私の評価軸上には存在しない。               

 今回もきっとシリーズとしての仕掛けが施されているのだろう。可能性と
しては海月君やその周辺人物の身元あたりが一番あり得るところか。おそら
く単体ではなく、複数人物がVシリーズの関係者として現れてくる気がして
るが、そういう単純な読みをあざ笑う高度な仕掛けも考えられるかも… 

 …というような読みを楽しむためだけに、シリーズを不毛に読み続けるこ
とは今回はやめようっと。取りあえず次回作の態度は保留。評判を見て”切
る”時期を判断しよう。これだけ決意をさせる凡作。低めギリギリ
6点

  

9/22 暗黒館の殺人 綾辻行人 講談社ノベルス

 
 本年度最大の話題作。新本格を象徴するシリーズの12年ぶりの新作。こ
れを読まずに済ませられる”真のミステリファン”など、この世に存在しな
いのではないかと思えるほど、全ミステリファン待望の作品。     

 ……なのだが、綾辻は本当に期待に応えてくれたのか? そう思える人は
幸せだろうと思う。どちらが少数派なのかは定かではないが、私個人として
は「あまり報われなかった」側に、一票を投じざるを得ないようだ。  

 とにかく長い、というよりも不当に長すぎる! 「人狼城」「監獄島」
は確かにこの長さ必要だよねってわかるんだけど、思わせぶりな記述が延々
と続くだけ。この視点の記述がミステリ的な仕掛けとして美しく着地してい
れば別だが、この結末では我慢して読み込んだ努力も報われまい。   

 殺人自体も不可能犯罪ではなく、謎に関する興味もあまり喚起させてくれ
ない。「ダリアの祝福」も長々と引っ張るほどの斬新味や意外性はない。

 伏線は膨大に組み込まれてはいるけど、大きな違和感を感じさせておきな
がら、細かい(細かすぎるってぇの!)伏線をねちっこく張っておいたって
効果はあまりないのじゃないかなぁ。個人的には、前述の違和感たった一つ
だけで(膨大な伏線など無駄、無駄、無駄!)、かなり早い段階で中心の仕
掛けが丸わかりになってしまった。                 

 たしかに殺人のロジックは面白かったけど、やはりそれだけでは報われな
い。集大成としての作品の価値は認めるけど、ミステリとしては大きすぎる
期待に応えるほどの器にはなっていなかったようだ。「やっと読めた」とい
う、肩の荷を下ろすような思いで
7点進呈するが、不満感は大きい。  

  

9/24 ZOO 乙一 集英社

 
 冷たい作品なんだなと思う。こういうホラー寄りの作品であっても、切な
さ系の作品であっても、共通の基本姿勢が読み取れるような気がしている。
「あきらめ」とでも言っていいのかもしれない。乙一の作品は大抵いつでも
もう一歩先への道が閉ざされている。明るい道へと導くことが出来るだろう
ところでも、乙一は必ずそこで立ち止まる。             

 切なさ系の作品においては、”孤独の詠み人”である氏は孤独同士の出逢
いを描く。でも、決してその先へ進ませようとはしてくれない。ホラーを描
けば、救いが欲しい場面でも完全な救済を与えてはくれない。ミステリであ
っても、謎解きはカタルシスとは別の次元へとつながっていく。    

 それは決して突き放した”冷たさ”ではない、、、そう思う。心の底では
”暖かさ”を求めていながらも、そう叫んでいながらも、そこで自らに歯止
めを掛けてしまうもどかしさ。どうしてもそう思えてしょうがない。「あき
らめ」であっても、決してあきらめきれてはいない、そういう余地が感じ取
れてしまう。乙一は「まだ」臆病なだけなのだと。          

 恒例のベスト3は、ファンタジーをリアルに引き戻す意外性を見せてくれ
た「SO―far」、姑息ではあるがミステリの驚きを味あわせた「Clo
set」、怖さではピカイチ(既読作品だったけど、怖くて再読できなかっ
たし)の「SEVEN ROOMS」としよう。採点は
6点。     

  

9/27 バルーンタウンの手品師 松尾由美 創元推理文庫

 
 妊婦探偵シリーズ第2弾。ちなみに「〜の殺人」が第1弾(既読)。「〜
の手毬唄」という第3弾(未読)まで出ています。文庫落ちを期に購入。今
回は各短編毎にショートコメントを付けてみることにしよう。     

 まずは表題作。強引さが強く目立ったように思う。こんな動機でここまで
することはあり得んやろ、と突っ込みたくなってしまう。       

 続いての「〜の自動人形」でも、1作目に続いて、この世界設定が充分に
活かされてるとは思えなかった。横溝正史トリックはそれなりに楽しいが。

 続いての「オリエント急行十五時四十分の謎」が文句なく本書のベスト。
年間ベストアンソロジー「本格ミステリ01」中でも、上位に選べる作品。
この世界ならではのバカミスが、楽しいったらありゃしないじゃないの。

 巻末の「埴原博士の異常な愛情」は異色作。ファンタジーの世界設定から
妙な方向のリアルな設定に持ち込んでしまって、逆に興ざめ。     

 全部の作品でこの設定の異色さを活かすのは困難だろうが、「自動人形」
以外はちょっと弱いかな。あまり気持ちよくない、居心地の悪い方向に逸れ
てしまった最終作もあって、評価は少し低め。総合採点は
6点。    

  

9/30 海のオベリスト C・デイリー・キング 原書房

 
 なかなかに凝り凝りの作品。本書のほとんどの部分が、推理合戦で占めら
れているという、ミステリ読みのための作品に仕上がっているのだ。しかも
この推理合戦こそが非常にユニークな本書のポイントとなっている。  

 素人探偵の推理合戦という趣向だけならば、それこそ星の数ほどに書かれ
ているミステリの王道パターンであろう。四人の素人探偵によって、四つの
仮説が提示される。ここまでは普通の展開だし、この仮説自体がミステリの
醍醐味に満ちあふれたような代物でもない。             

 しかし、ここからが違う。素人探偵四人は全員がそれぞれ違う主義を持つ
心理学者なのだ。各々の学派がそれぞれ捻って、個々人の名前になっている
あたりも、マニアックなこだわりぶりが良く表れている。そして、それぞれ
の主義に基づいた心理試験によって、自らが提示した仮説に於ける被疑者を
尋問することになる。その結果、全てが否定されてしまうのだ。    

 心理試験自体は、乱歩のそれそのものの試験もあったりして、若干古めか
しい感じもするのだが、この工夫っぷりは尋常ではないよなぁ。    

 そこからの展開もミステリのケレン味に溢れていて、楽しいことしきり。
勿論、もう一つのポイントである”手がかり索引”も、本作で初めて取り入
れられた趣向という、歴史的な価値もある。純粋なミステリとしては、それ
ほど優れているという程ではないが、趣向を評価して採点は
7点とする。

  

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