ホーム創作日記

1/8 くらのかみ 小野不由美 講談社

 
 年末のベスト選出で総じて人気の高かった作品。本格性も高く評価されて
いたため購入してみた。私としては有栖に続くミステリーランド作品。全部
集めたくなるようなシリーズなんだけど、やはり一般家庭人としては、評判
聞くまでは購入を躊躇してしまう価格だってのが唯一の難点かな。   

 結果的にはこれまた大満足。犯人当てと座敷童子当てという二つの興味で
引っ張ってくれるし、充分にアクロバティックなロジックで解決を導き出し
ている。座敷童子も単独で意味を為すだけではなくて、ちゃんとロジックの
中にしっかりと組み込まれているじゃないか。本格とは無縁なイメージを持
っていた作者だけれど、確固たる本格魂を持った人だったのですね。  

 それに何より雰囲気がいい! 大人だけの話し合いのかやの外にいる子供
達、そのなんだか懐かしいような感覚が、既に記憶の外なのにも関わらず蘇
ってくるような気分が味わえた。この読書体験だけでも非常に楽しい。 

 現在形の子供達も、過去形の子供達も、双方が楽しめる作りになってるの
は間違いない。良書、良書、にっこり顔になってしまう。有栖作品も良かっ
たが、こっちの方を高く評価したい。採点は悠々の
7点。       

  

1/13 九つの殺人メルヘン 鯨統一郎 カッパ・ノベルス

 
 全編が安楽椅子探偵もので、全てがアリバイ破り。その全てをグリム童話
に絡ませる。しかもそのアリバイトリックは、有栖のアリバイ講義で九つの
パターンとして示されている、そのそれぞれに対応させている(らしい)

しかも当然のように連作としての仕掛けも盛り込んでおくよという、自虐的
なほどにシバリのかけられた連作集。                

「こじつけのプロ」の真骨頂はここにあり! もうこの心意気だけでお腹一
杯の作品集。個々の作品の出来映えなどには、触れる必要もないってとこで
しょ(但し、決して悪い出来ってことじゃないのでご安心を)     

 で、これまたそれ以上に愉しかったりするのが、登場人物達の話題の懐か
しさ。30代後半以降の人間にとっては、くすがられる要素が満載のはず。
一度ご挨拶したときのご本人の雰囲気では、自分より若いという印象を受け
たのですが、この懐かし度の中身を見ると、私(40歳の誕生日を迎えたば
かり)より微妙に年上なのかなぁと想像しているところ。       

 しかし本作をもっとじっくりしゃぶり倒すためには、有栖のアリバイ講義
と対応させたいところ。手元にネタ本がないと意味ないよねぇ。解説を付け
てアリバイ講義の概要だけでも書いていて欲しかったなぁ、というのは要求
のしすぎだろうか。出版社が違うから望むべきもないというところか。 

 これまで読んだ中ではやはりデビュー作が最高ではあるけれど、純粋なミ
ステリとしてはこの作者のベストに推しておこう。ギリギリ
7点進呈。 

  

1/16 QED龍馬暗殺 高田崇史 講談社ノベルス

 
「式の密室」「竹取伝説」とせっかく盛り上がってきたところだったのに、
いきなりのトーンダウン。自分の評価ではこれまでのシリーズ中最低点の出
来映え。新撰組ブームのおこぼれ狙いだと邪推している今日この頃。  

 まずは現実側。いかん、いかんぞ、高田崇史。QEDシリーズはやっぱり
○気シリーズでなくっちゃ、だわ。ここでシリーズの流れを断ち切ってしま
うのは勿体ない。こじつける余地はありそうに思えたのだが。しかし「式」
でもかなり微妙だっただけに、○気こだわりというよりは、異常心理こだわ
りと解釈すべきだったのかな。そう考えるとシリーズつながるのかな? 

 歴史の謎もかなりの拍子抜け。着目点は面白くなくはないのだが、そこか
ら結論に至る説得力は全く感じられなかった。この一点だけでそこまで制限
されてしまう必然性がとても乏しい。結論自体も門外漢の目から見てさえ、
新味のあるものではないし。この歴史部分だけで評価しても、これまでのシ
リーズ中最も魅力に乏しい作品になってしまってると思う。      

 5点を付けるほど反感があるわけではないので、採点は6点最低レベル。

  

1/20 「宝石」傑作選 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

 
 もう言わずもがなの老舗中の老舗。ミステリ雑誌の代名詞と言っても過言
ではないだろう。「幻の探偵雑誌」のラストが「新青年」であり、「甦る推
理雑誌」のラストが「宝石」であることは、誰もが納得するはず。   

 さて、それだけの雑誌であるが故に、過去に何度か単独でのアンソロジー
として編まれている。他にも様々なアンソロジーでさんざん漁り尽くされて
いるわけだ。このシリーズ自体、幻の傑作を読みたいというような目的の叢
書ではないので、全部承知の上でまったりと楽しみたいところ。    

 そういう意味では、豊富な素材の中から、手堅い作品が集まっていると言
えるだろう。本格の趣の高い作品も多い。シリーズ平均以上には楽しめる。

 ベストは断トツで川島郁夫「或る自白」 深謀遠慮のトリックに動機や心
理の作品としての完成度。この時代のミステリの先鋭性と情緒性が美しく融
合された佳篇。この頃の川島郁夫の短編はほんとに良いものが多いと思う。

 懸賞短編から本誌初登場で大胆なパロディをやってのける、山沢晴雄「神
技」を第2位としよう。更にこの続編でも大胆な展開を見せているのだが、
さすがに2本掲載というわけにはいかないだろうからな。残る1編は、相変
わらず機械派の飛鳥高「孤独」とする。全体的な採点は、やはり
6点。 

  

1/28 順列都市(上・下) グレッグ・イーガン ハヤカワSF文庫

 
 うっく、、、ムズカシイ。短編集2冊は万人にお薦めし得る作品だったと
思うが、ここまで来るとSFファン以外には辛いかも。私には塵理論が感覚
的にはわかっても、理性的に納得出来るところまでいかなかったなぁ。 

 しかし、やっぱり超絶的なアイデアであることは間違いない。完全なる不
死をロジックで成立させ、あまつさえ完全なる神の死さえ描き出してしまう
のだから。著者のほとんどの作品を貫くものとして、明らかにアイデンティ
ティ・テーマを読み取ることが出来るが、その一方こういう「神話の崩壊」
みたいなテーマも多いように思う。神を否定し、自己に執着する、まるで唯
我論みたいな人物だよね。いや、違うのか。常に自己の拠り所を探し続ける
しかない、そういう強迫観念を作品にし続けているのだろうか。    

 ところで時々思うんだけど、コピーやクローンって意味があるのかな?
少なくとも自分自身にとっては無意味だと思うけどな。残された人々にとっ
ての価値は別として。しかし種の保存・自己の保存(遺伝子としての次世代
への複製)が生物としての最大の目的なのだとしたら、それは本能的に意味
ある行動のはず。なのにどうしてちっとも魅力が感じられないのだろう?

かえって自分自身に嫉妬して破壊したくなりそうな気がするんだけどね。

 てなことはともかく、採点は悩むところだけど、6点かなぁ。    

  

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