ホーム創作日記

12/1 「別冊宝石」傑作選 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

 
 大学時代の古本屋巡り(福岡市内のめぼしい古本屋を巡る巡回コースを作
っていた)の、最大の目的の一つが「宝石」&「別冊宝石」探しであった。
特に分厚い懸賞小説の別冊が最大のお目当てだったのだ。だから秀逸なこの
アンソロジーシリーズの中でも、最も愛着を覚える巻の一つと言える。 

 とはいえアンソロジーのネタ元になることの多い雑誌だけに、本書単独で
興奮出来るような作品が集まるべくもない。傑作選を編むのなら落とす方に
苦労する程凄い作品が集められるが、本シリーズの価値はそういうところに
はない。あまり人目に触れることのない作品・作者が読めるところ、そここ
そが魅力なのだから。なかなかバランスの難しい選択だろうと思う。  

 さて本書のベスト3。トリック(?)には無理がありすぎるが、展開・オ
チとも極端なプロットが愉しすぎる足柄左右太「私は誰でしょう」をベスト
としてみよう。残り2作は意想外なバカトリックが炸裂する(こういうのば
っか評価してる気がしないでもないが(笑))多岐川恭「みかん山」と、こ
の作者としては弱いが大坪砂男「赤痣の女」を選択してみた。     

 純粋にアンソロジーとして読むには物足りない作品集ではあろうが、個人
的な思い入れをたっぷりと加味加点して、採点は
7点とさせて貰おう。 

  

12/2 虹果て村の秘密 有栖川有栖 講談社ミステリーランド

 
 所属するMLでもかなり評価の高かった作品。知り合いにも秀逸なロジッ
ク・ミステリだと大プッシュされて購入した。自分としてはこれが初めての
ミステリーランド作品となる。「マレー鉄道の謎」「スイス時計の謎(表題
作)」
と、原点の本格回帰の傾向がはっきりと表れている、現在の有栖が描
くジュニア向けミステリ。そういう興味も期待も高かった。      

 そして期待は満たされたと言って良いだろう。きちんとロジカルに解明さ
れるし、論理のアクロバット性も兼ね備えている。そういうところに着目し
てきたかぁってのは、クイーンの読後感を彷彿とさせてくれる。    

 そしてこれは宇山氏の編集方針なのだろうが、子供に媚びた作品になって
はいない。他の作品の評判を聞いても、どうもそうらしい。ジュニアの視点
は大きく意識されているものの、ミステリとしてこじんまりとちっちゃなも
のになっているわけではないのだ。ミステリクイズ本に出てくるような、お
ざなりさが微塵もない。これはやっぱり”ミステリ”なのだ。     

 これが完全に初めて読むミステリだとしたら、ちょっと難しいのかもしれ
ないけれど、今の時代はあかね書房ではなくコナンを代表とする漫画が入り
口になっているだろう。そういう子供達に対して、活字の世界へ導くにはい
い叢書なのかもしれない。有栖の後書きも結構泣かせるじゃないか。  

 こういう叢書自体への評価も含めて、採点は7点としたい。     

  

12/4 求婚の密室 笹沢左保 カッパノベルス

 
「他殺岬」に続いての第2弾となる。氏が初めて挑んだ”密室”というのが
個人的には非常に意外。初期の新本格な作品では、様々なトリックが案出さ
れていて、当然密室も含まれていると思っていたのだが。       

 というわけで”密室”を前面に押し出しているだけあって、これは全編が
ガチガチの純本格推理ゲームとして機能している作品なのだ。2人の求婚者
に主人公、三つ巴の推理合戦が展開される。勿論、氏らしく人間の哀しみや
ら人情も描かれているものの、主眼は明らかに「純本格」である。有名な木
枯らし紋次郎を始め、いろんな方向性を試していた氏が、久々にどっぷりと
真っ正面から本格に挑んだ作品なのである。             

 もともと新本格な作風が得意な氏が、とことん力を込めた本格なのだから
こりゃあ面白くないはずがない。ある程度の予測が付いたにしても、この意
外に単純な構想が果たして読み取れるかな? 推理ゲーム大好きな本格者で
あれば、まず読んで損のない作品。ダイイング・メッセージは、心理的に納
得出来るようなものではないので、そこは減点要素だけど。      

 前作「他殺岬」の秀逸なプロットにはわずかに及ばないが、余裕の7点

  

12/10 レインレイン・ボウ 加納朋子 集英社

 
「月曜日の水玉模様」と一部登場人物が重なっているが、続編というわけで
はなく単独で成立している連作。前作が軽み、ほのぼの系でウェット度の薄
い作品集であったのに対し、チームメートの死から始まる本作は、それなり
にウェット度がアップしている。その代わりミステリ度は大幅にダウン。本
書はとてもミステリの範疇ではなく、一般文芸書の位置づけだろう。  

 帯には『「いまどきの」なんて言葉でくくって欲しくない』という、加納
サマ自身の言葉が書かれてはいるが、あまりイマドキな感じはしない(笑)
どちらかといえば、ちょっと前の時代の真っ当な女性像だと思える。それに
応じて、高校卒業して7年ってイメージじゃなくて、30代半ば過ぎの女性
ばかりの同窓会みたいな構図が、自分の頭の中では展開されっぱなし。私が
作者本人のイメージを投影しちゃってるだけなのか、作者自身の心象が実際
に投影されちゃっているのか、私自身では判断する術はないんだけど。 

 これは勿論否定する気持ちはさらっさらっなくって、優等生タイプが好き
な(たとえればセーラームーンで言えば水野亜美ちゃんよねってな)自分に
とっては、非常に心地よい読後感を保証してくれることにつながっていると
思う。ファンタジー系の心地よさが、必ず作品の中にある。人間性の奥深い
部分のリアルさを求める人とは相容れないだろうとは思うけれど。   

 本作で一番好きな作品は、ミステリ色が微妙に高めの「スカーレット・ル
ージュ」や「ひよこ色の天使」ではなくて、「雨上がりの藍の色」だったり
するのも、やはりこの心地よさのせいなのだろうなぁ。でも、やっぱりもう
少しミステリ側に橋を渡して欲しいもの。そういう意味で採点は
6点。ミス
テリとは判断せず、年間の順位表には入れないことにしましょう。   

  

12/18 歌うダイアモンド ヘレン・マクロイ 国書刊行会

 
 昨年度末の「本格ミステリ・ベスト10」の海外編では、投票した5作品
のうち4作がベスト5入り。おお、なんだか海外本格読みの熟練みたいやな
ぁ、と自画自賛したくなったが、実はその時点で対象期間の作品はわずか6
作しか読んでなかったダメダメ人間なのでした。ひょっとしてこの作品を読
んでいたら、同じ作者の「割れたひづめ」ではなく、パーフェクトを果たし
ていたかも、というのを確認したかったりってのもあって読んだ作品。 

 自薦集+中編1編。このボーナストラックの「人生はいつも残酷」が本格
の教科書のような作品で実に素晴らしい。自分殺しを探偵する、という導入
部から、伏線、解決と実にきっちりと構成された堂々の本格。サスペンス系
のイメージが強かった作者だが、不可能トリック炸裂の「割れたひづめ」と
いい、結構な本格魂を持った作者だったのだと改めて見直す。     

 表題作のバカミス度合いも抜群。UFO殺人を現実のものとして論理的に
成立させてしまうトンデモ異色本格。ここまでしておきながら、肝心なとこ
ろは大きく自己矛盾させちまってる、犯人のおまぬ具合もトホホだぞ。 

 ベスト3の最後の一角は、長編「暗い鏡の中に」の原型「鏡もて見るごと
く」としよう。オカルト・ファンタジー性と本格の融合。評判の高い「東洋
趣味」は舞台設定の書き込み等はたしかに素晴らしいとは思うが、本格性は
それほど感じなかった。雰囲気を楽しむ作品ではないかな。SF作品も多い
が、結構ありがちなアイデアばかりでそれほど新味は感じなかった。  

 結果的にはこれも読んでいたとしても長編の方に投票していたと思う。中
編の見事さと表題作のバカミス度を評価して、採点はギリギリ
7点。  

  

12/24 夜更けのエントロピー ダン・シモンズ 河出書房新社

 
「ハイペリオン」で有名な作者の日本オリジナル短編集。ホラー、SF、ハ
ードボイルド等々と多彩なジャンルでベストセラーを連発する、氏の実力が
発揮された好傑作集。スタージョンや「フェッセンデンの宇宙」などが刊行
される予定の「奇想コレクション」シリーズの嚆矢を飾る作品。    

 個人的には全体を覆う暗鬱な雰囲気が重すぎた感を受けた。ゾンビ、吸血
鬼、エイズ、ベトナム戦争などの題材が繰り返し使われ、かなりホラー寄り
の選択になっているようだ。しかし、それらある意味陳腐な題材を、いかに
新味ある物語に仕立てるか、その作者の力量の凄さが一目瞭然。    

 特にこの中でも群を抜いて凄みを感じたのが「最後のクラス写真」だ。ゾ
ンビという世紀末の光景から、「美しさ」とも思える構図へと、いかに描き
抜くか。この1作を読んだだけでも「ダン・シモンズ凄ぇー」と、きっと言
いたくなるはず。これは特異な傑作だと思う。            

 と思えば、同じゾンビを題材にしても、日常の中に取り込まれた淡々とし
た光景として描いて見せたりもする。作者のデビュー短編「黄泉の川が逆流
する」がそれだ。本作は読了後にじわじわと良さが効いてきた。    

「最後のクラス写真」の次に好きなのが「ケリー・ダールを探して」 訳者
あとがきにもあるように完成度抜群。ハリウッド的とはひと味違う、作者の
”濡れた”エンタテインメント性が発揮された佳篇。以上が私のベスト3。

 総じてホラー色よりも哀感の読後感がにじむ作品が自分の好みなのかな。
「最後のクラス写真」という作品が読めたことを評価して、採点は
7点

  

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