ホーム創作日記

6/2 壜の中の手記 ジェラルド・カーシュ 晶文社

 
 いわゆる”奇譚”という言葉が、完璧にマッチする作品集。オチのあるア
イデア・ストーリーと云うよりは、話そのものの奇妙さで読ませてくれる。
私がこれまで読んできた作者の中では、SF界のほら吹きじいさんR・A・
ラファティに最も近い味わいではないかと思う。           

 秘かに(だと思うが)読書界の話題をかっさらっていて、あちこちのミス
テリ年間ランキングでも上位に喰い込んでいた。個人的にはどういう話でも
”オチ”を考えながら読んでしまうタイプの人間なので、こういう話自体の
奇想や奇妙さのみで終始する作品には、それほどの感銘は受けないようだ。
だから確かに面白くは思うんだけど、評判ほどはのめり込めなかったな。

 というわけで採点は6点。最後に恒例のベスト3選びだが、珍しく意外な
オチのある「骨のない人間」、話として一番楽しめた「破滅の種子」、雰囲
気が一番味のある「豚の島の女王」の三作としよう。         

  

6/4 捕虜収容所の死 マイケル・ギルバート 創元推理文庫

 
 映画「大脱走」と戦争スパイ物と本格ミステリとの融合。「大脱走」が生
涯のベスト映画の一つでもある人間にとっては、非常に楽しめた作品。あの
雰囲気を本として読めたのはこれが初めて。収容所内の軍隊的組織の構築、
掘り進められるトンネル(入り口の意外性も面白い)、一匹狼的脱走劇、相
次ぐトラブル、、、これらを読んでいるだけでもワクワクしてしまう。 

 確かにユーモア感がちょっと希薄気味で、一人一人の描き込みに欠ける部
分もあり、ヒーロー物的な味わいにはなってはいない。つまりはエンタテイ
ンメント性として「大脱走」には圧倒的に及ばないのだが、それを補うよう
に本書には”謎”があるのだ。いったい誰がスパイなのか、これがサスペン
スを高めている。トンネルが掘り進められていくと同時に、この謎がストー
リーを引っ張る、そういう並行した流れが読書を楽しませてくれる。  

 そして本格ミステリ。それほど意外性があるわけではないが、ロジックと
伏線の収拾できっちりと解答は与えられる。個人的には「どうしてあの人物
がああなったのか?」というWHYに対する、パラドックス的な裏返しのロ
ジックに盲点を突かれた思いがした(曖昧な言い方ですみません。読了され
た方でも何を言いたいのかわかって貰えないかもしれないな)     

 複合した面白み。おまけ奮発気味かもしれないが、8点としよう。  

  

6/5 首切り坂 相原大輔 カッパノベルス

 
 第2弾がどういう形でやってくるのか楽しみにしていたカッパ・ワンだっ
たのだが、思いっきり期待はずれ。メフィストとは違う、古くて新しい真っ
当な本格路線が継承されることを期待していたのに、本格作品はわずかこの
一作のみ。それもいきなり毛色が違うことを予想させるような作品。まだま
だ「旧新・本格推理」には期待出来る人材がいるだろうと思うのだが(何人
か想像していた人もいたのだが)、そういう路線を選んではくれなかった。

 というわけであまり食指は動かないながらも、仕方なく購入した作品。予
想に違わず(と言っては失礼だが)興味を惹かれるミステリではなかった。
ワンアイデアのバカミス・トリックではある。しかし、最終的な現象自体は
意表を突く形に持っていってはいるものの、基本はかなりありがちな着想。
これを”はじけていない”作品にしてしまっている。ああ〜。     

 これからに非常に期待を持たせてくれた第一弾メンバーとは大違い。第二
弾メンバー(あとは伝奇バイオレンスに戦闘美少女ものだし)を今後追いか
けることはないだろう。元々メフィスト賞の二番煎じ狙いの賞なだけに仕方
ないのだろうが、せっかくメフィストとはひと味違う毛色でまとめて第一陣
を出した癖に、いきなりあっさりとそのカラーを捨てて「メフィスト賞その
まんまやん」になってしまうのはいかがなものか、カッパノベルス編集部。
そんなにメフィスト賞がうらやましいかぁ〜〜! うらやましんだろうな。
期待した私がバカでした。カッパ、そんなもん。採点は低空飛行の6点

  

6/6 クラミネ 児玉真澄 トクマノベルズ

 
 実は同じMLに所属している方なので(だから読んでみたわけだけどね。
普段ならば個人的に食指が動くタイプの作品ではないもの)、感想の書きに
くさはあるのだが、フェアな立場で正直に書かせて頂きます。情実を入れて
たら、お会いしたことのある作家の方々の作品の感想書けなくなってしまい
ますからね。辛口系の書評が多いだけに、いろんな方に申し訳ないけれど。

 ということで本書の感想。う〜ん、もったいない気がする。エンタテイン
メントとしては結構読ませてくれるのだ。ジェットコースター的な面白さは
確かに感じられる。しかも中途では結構意外な展開を見せてくれる。何度か
意表を突いたひっくり返しを持ってきてくれているのだ。       

 ああ、だが、しかし、それなのに(くどい?)、最後がコレでは(絶句)
おそらく読者の多くが想像出来る、一番当たり前の、一番つまらないところ
に落ちてしまっている。ミステリの文法としては基本形のところに落として
しまっては、それまでせっかく新しさを出そうとしたのが台無しに。  

 このラストをレッドへリングとして引っ張っておいて、中盤で何度か意外
性を与えてくれたどれかをラストで飾ってくれれば、ミステリマニアをも一
唸りさせる作品になったかもしれないのに。一本道で辿り着いたわけでなく
いろんな可能性を提示してくれていただけに、非常に残念。      

 ミステリとしての結構にこだわらずに、エンタテインメントに徹した作品
の方が向いている方のように感じた。採点はやはり6点である。    

  

6/7 秘密2巻 清水玲子 白泉社

 
 生前の脳が見た映像を再現するMRIスキャナーを用いた捜査を行う、科
学警察研究所法医第九研究室―通称「第九」を描いたコミックスの第2巻。
「秘密2002」「秘密2003」という題名になっているということは、
年間1作のペースで書き続けるライフワーク、というような位置づけになっ
たのかしらん。出来れば倍くらいのペースで読みたいものだけどなぁ。 

 惜しむらくは、本格ではなくサスペンスの手法で描かれていることだが、
それは本格偏愛派故の無い物ねだりでどうしようもあるまい。これだけのド
ラマ性をもって描いてくれている以上、楽しみに読み続けられる魅力を持っ
たシリーズである。今回も夢をモチーフにしたり、意外な取っかかりを使用
してきたり(よくMRIにかけられる状態が保たれてたよなぁ、と指摘して
しまう意地悪じいさんな私(笑))、良く練られた創り込み具合も良い。

 怖い物苦手の弱々な自分(第九で働くなんて死んでも無理!)としては、
いくら清水玲子の美麗繊細なタッチで描かれていても、ちょいとクラッと来
てしまうシーンはあるが、それは歯を食いしばって耐えてみせますとも。

 今回も採点は7点にしておこう。やはりこの秀逸な設定、彼女だけの特許
にしておくのも勿体ない気がしてしまう。どうにかしてミステリ作家とのコ
ラボが実現出来ないものかなぁ。MY文庫でミステリ系にも手を伸ばしてき
た白泉社ゆえに、どうしても期待してみたくなるのだ。どうか是非是非!!

  

6/8 スイス時計の謎 有栖川有栖 講談社ノベルス

 
 おお〜、まさか有栖の短編を心から褒めることの出来る日がやって来よう
とは…… 感激のあまり10秒ほど絶句させてください。       

         ( …… 10秒の間 …… )         

 このサイトを何度か訪れてくださってる方ならご存じかもしれないが、氏
の短編に対しての私の舌鋒は必要以上に厳しいものがあった。いや、短編に
限らないか。「初期3作で有栖は終わった(少なくとも今は)」というのが
確信的なまでに揺るがなかった私の正直な気持ちだったからだ。    

 そう、「マレー」での回帰宣言に触れるまでは。「日本ミステリ・ベスト
30怒涛の全作品解説」
の中で、「有須川有栖の復活を高らかに謳って欲し
い」と私は書いた。それがあの宣言であり、そしてそれを実作においても確
かに示してくれたのが、この「スイス時計の謎」なのだ。       

 ロジックの美しさ、初期作品で示した有栖の本来の魅力がこの短編に凝結
されている。法月「都市伝説パズル」という、シンプル故に鮮烈なプロッ
トの傑作を書いてくれたが、これはシンプル故に鮮烈なロジックを見せてく
れた堂々の傑作。短編の年間ベストに迷わず推薦しても良い。     

 創元の新雑誌で学生アリスを補完する短編群を書いてくれそうだし、これ
はいよいよ学生アリスの長編の登場を期待してしまうではないか。この勢い
のまま是非是非、生涯最後の傑作(ああ〜、癖になったようにこんなことを
書いてしまうのだよ(笑))を見せて欲しいものだ。         

 他の短編について書くスペースが無くなったが、それで充分。表題作だけ
ならば文句なく8点確保だが、バランスを考えれば7点にせざるを得まい。

  

6/9 阿弥陀ヶ滝の雪密室 黒田研二 カッパノベルス

 
「ふたり探偵」シリーズ第2弾。しかし、まさかその時の書評で冗談で書い
たことが本当になってしまうとは(苦笑) ショッカー軍団対特殊な設定を
持ったヒーローとの戦い、いやはやまったく特撮系の世界に突入ですね。

 それに同期して、前作を「端正な本格」なんて書いてしまった私をおちょ
くるかのように、今回はバカミスのオンパレード的様相。意外きわまる犯人
の正体に、驚愕のトンデモトリック、大爆笑のダイイングメッセージ。 

 中でもダイイングメッセージが一番のお薦め。珍しい発言をしているよう
な気もするが、読んで貰えればわかるはず。これはもう完璧にくろけんさん
のウケ狙い。読者の爆笑こそが、作者のしてやったりに違いない。   

 しかし、トンデモトリックに関しては実はちょっと不満。あの描写でそれ
が成立するかなぁ、と納得し辛い感があった。バカさ加減はかなり凄いとこ
ろまでいっているだけに、出来るだけ無理さを感じさせなくして欲しい。

 このすっきり感がないだけに採点は6点止まり。しかし、この二つの流れ
をいったいどう交差させるのか、ふたり探偵がどう絡んでくるのか、最後ま
で読ませてくれたけどね。読みどころは結構満載(かもしれない)   

 霞流一の陰に隠れて(笑)ひっそりとしかし着実に、ミステリ界の色物作
家としての地位を築き上げているくろけんさん(本気度88%。うん、かな
り本気ですぞ) ひょっとしてそろそろウケを取らずにはすませられない、
色物作家体質に完全に染まりきってしまおうとしているのでは。若干の不安
が感じられる今日この頃だけど、それはそれで付いていきましょう(笑)

  

6/11 マリオネット症候群 乾くるみ 徳間デュアル文庫

 
 こんなところでひっそりと(笑) 身近の書店で探しても銀英伝くらいし
か置いてないし、何軒も探し回る羽目になりましたとさ。「ぶたぶた」とい
い、意外なところを引っ張ってくるなぁ。侮れません、徳間デュアル文庫。

 しかし前作以来まるまる4年以上。別名での評論はよく見るとはいえ、ど
うして作品を出してくれ(出せ)なかったのか、そして何故久々の作品がこ
ういう傾向の作品なのか? 一作ごとに個人的評価がうなぎのぼりして、次
作を楽しみにしていただけに、こういう形での再登場はちょっと不本意。

 コメディSFホラーとでも表現した方がいいのだろうか。一見ミステリっ
ぽい雰囲気を持っていながら、本格とは全く異質の方法論。犯人探しで引っ
張るかと思いきや、あっさり解決。ルールが出てくるから、西澤保彦的SF
ミステリを期待すると、そういう方向にはちっとも進んでくれやせん。 

 読者の予想を裏切るブラック・コメディに、叩き込むように突入するやい
なや、どたばたでしかもなんだかのどか恐ろしい結末へ雪崩を打って倒れ込
む。中編程度の適度な長さでまとまってると言えないこともないが…… 

 うーみゅ、これもまた乾くるみなのか? たしかにデビューはミステリよ
りは正真正銘の色物のノリではあったものの。不思議な方です。御本人と作
品とのイメージがどう考えてもマッチしないような???       

 ミステリの文法で書かれているわけではないので、採点対象外の6点

  

6/13 本格ミステリ03 本格ミステリ作家クラブ編
                                          講談社ノベルス

 
 昨年は「1年間の本格ミステリ短編の状況を軽く一望するには最適な作品
集」と評したが、今年ちょっと違和感を感じたのは、シリーズ物が圧倒的に
多い点である。中には鯨統一郎のように、明らかに連作の一部を切り取った
作品さえも含まれている。独立短編よりもシリーズ物が多いのは、実際の出
版状況を反映してるのだろうし、そちらの方にいい作品が多かったりするの
だろうが、なんとなく釈然としない様を感じてしまうのは何故?    

 あと全体を通じての感想は、今回は漫画が無くて残念だなってのが一つ。
ここで収められるほどの長さだと、本格としてはちょっと中途半端にならざ
るを得ないのかな。でも1年間あるのだから、適度な長さで良質の(っての
が一番の問題か?)本格ミステリ漫画ってありそうなもんだけどな。まぁ本
格ミステリ作家クラブとして、あえて発掘する必然性はないわけだけどさ。

 というところでベスト3だが、今回のベスト1は迷わずコレ。大山誠一郎
「彼女がペイシェンスを殺すはずがない」 「新・本格推理03」所収の短
編も良かったが、これも本格短編としての技巧を縦横無尽に駆使した名品。
本格者としてのセンスは抜群。期待高まる大型新人。おそろしく質の高いデ
ビュー短編集が読めるかも。勿論、長編も出来るだけ早く読ませて欲しい。

 続いては西澤保彦「腕貫探偵」 推理の提出の仕方がとてもいい。饒舌な
説明が一切無く唐突な断片が一つ。氏の新たな境地で今後が興味深い。残る
一作は貫井徳郎と悩んだが、霞流一「首切り監督」に決定。前者は連作の枠
内で読んだ方が面白味が増すので。霞作品はおちゃらけ度は低いながらも、
しっかりとバカのツイストを効かせている。             

 総合的には、これだけのものが一堂に会して読めると云うことで、7点

  

6/18 空想非科学大全 柳田理科雄 空想科学文庫

 
 ラリイ・ニーブンに「無常の月」という短編集がある。この本が大好きだ
った。元々はハードSF作家なのに、それに収録されている「スーパーマン
の子孫存続に関する考察」には大笑いしたものだった。おそらくこの手の科
学ツッコミ・ネタとしては最も有名な作品だろう。          

 そのノリを特撮物に応用したのがこのシリーズ。”好き”なことはわかっ
ちゃいるものの、単行本まで買って所有する程のものかなぁ、と個人的には
躊躇しっぱなしだったので、今回文庫化を機にやっと入手出来ました。 

 結果的にはまさに予想していた程度の面白さ。抜群ではないものの安定し
て楽しめるといったところ。適度に笑いつつ、呆れつつ、ツッコミに突っ込
みつつ、へぇ〜と感心しつつ、予想通りに予想通りの時間が過ごせる。ちな
みにこの作者名が本名だというのも、20へぇくらいはいくな(笑)  

 VOWみたいに、無くても構わないもののあれば楽しめる、安定の6点

  

6/19 「探偵クラブ」傑作選     
 
            ミステリー文学資料館編 光文社文庫

 新潮社版新作探偵小説全集の付録小冊子である「探偵クラブ」と、平凡社
江戸川乱歩全集の付録である「探偵趣味」から集めたもの。     

 全集収録作家全員による連作、なんていう企画が成立しているという事実
こそが、遊び心に溢れていてなんだか嬉しくなってしまうではないか。閉鎖
性につながる可能性はあるとは云え、特定のジャンルの共有感がもたらす仲
間意識。それが遊戯性に直結することを思えば、アニメやTVゲームの無か
った時代の、最尖鋭のオタク文化と言ってもいいのではないのかしらん。

 その仲間意識は勿論新人にも向けられる類のものではあるけれど、中でも
ミステリ界をリードする巨人こそが、特に大きくそういう要素を発揮してく
れるというのも面白い。最近では鮎川氏が晩年も「本格推理」の選者として
数多くの素人作品に目を通してくださっていたのも記憶に新しいところだ。

 そしてまた大乱歩も同じ。「探偵趣味」は一般公募作品の中から、乱歩が
選考し選評も書くという趣向を通している。これが可哀相なほど、実に詰ま
らないのだ(苦笑) 乱歩の嘆きもにじんではいるが、新人に対する期待や
情熱はもっともっと紙面に沁みだしている。枚数に無理があったのかもしれ
ないが、せめて一編くらい目の覚める作品が氏の元に届いていればなぁ。

「気持ち」が嬉しいアンソロジーだが、見るべき作品は皆無。採点は6点

  

6/20 テンプラー家の惨劇 ハリントン・ヘクスト 国書刊行会

 
 何を期待して本書を手にするかで、おそらく評価は大きく分かれることで
あろう。一般の新刊と同じように、ミステリとしての驚きや謎解きを期待し
ていると、報われない思いを抱くかもしれない。黄金時代の雰囲気こそを期
待し、そこに浸る楽しみを意図していると、大きな満足感を得ることが出来
るかもしれない。                         

 これは現代読者にとっては、ミステリとして作品を楽しむというよりは、
作品としてミステリを楽しむ、という種類の本になるかもしれない。ニュア
ンスが通じにくいとは思うが、「ミステリ」という形式美の一つの形が良く
表れている。トリックや意外性などではなく、ミステリこそが描き得る心理
の凄み。犯人像やその動機を描ききった、ある意味ではとても美しい作品。
ミステリがある種の叙事詩にも成り得るとすら思わせてくれるかも。  

 但し現代読者の目からすれば、犯人も動機も容易にわかってしまうのはお
そらく間違いない。それを承知でその美しさに浸れるかどうかが分かれ目。
個人的にはもっとどろくさい、トリックや謎解きのベタベタなものを愛する
が故に、それほどの感銘は受けなかったのが正直な感想。採点は6点。 

  

6/26 ミステリーズ! Vol.01 東京創元社

 
 雑誌自体を取り上げるのもなんだが、創刊号ということでお許しを。個人
的には「○○時代」のような学年誌以降、雑誌の定期購読みたいなことはし
たことがない。りぼんとか花とゆめとか最盛期のジャンプなんかの漫画誌は
別として。だけども今回は定期購読申し込ませて頂きます。だってオジサン
マーク・ピンバッジが欲しいんだもん。創元推理文庫のこのマークに育てら
れたようなもんだし、ボトルキャップや玩具菓子に弱い性格だし(笑) 

 さてそれでは中身はどうか。北村薫の長編連載は思ったほど今後に期待は
出来ないかも。有栖は学生アリスを補完する短編。もっと読ませて欲しい。
長編に取り組んでくれればベストだが。黒崎緑、しゃべくり探偵堪能しまし
た。鯨統一郎「邪馬台国」続編、いいがな、いいがな。今度は”世界”だ!
鯨、黒崎、有栖の順で、創刊号のベスト3としておきましょう。    

 さてその他で嬉しかったものと言えばやはりコレ、泡坂妻夫の犯人当て。
犯人はきっとあの人物だろうけどわかりやす過ぎ。ひょっとして更に捻りが
待っているのか。トリックは、う?ん、超バカミスなものしか思い付かない
んですけどぉ。それで出してみよっと。ちなみにこの懸賞付き犯人当て小説
は毎回掲載されるようで、これが定期購読を決めた最大のポイントでした。

 他分野では、諸星大二郎の読切連載という企画が良い! そして評論系で
はなんといっても「本格ミステリ・フラッシュバック」 いきなり笹沢左保
に梶龍雄という選択センスが抜群にいいぞ。それぞれの代表作に選出しても
遜色のない「暗い傾斜」「清里高原殺人別荘」も取り上げて欲しかったが、
好みの問題でもあるのでしょうがないよね。とはいえ今後も期待してます!

  

6/30 OZの迷宮 柄刀一 カッパノベルス

 
 そう、今まであまり意識したことはないのだが、柄刀一も「本格推理」
身者なのだった。そしてひょっとしたら本書は、そんな自身のアマチュア時
代に対する、氏ならではの訣別宣言なのではないのだろうか。本書の非常に
ユニークな特徴(ミステリとしての仕掛けと言っても良いようなもの)は、
それを象徴しているように私には思えてしまったのだ。        

 まずは「本格推理」の比較的初期に書かれた「密室の矢」と「逆密室の夕
べ」が、ほぼそのまま(なのだろう)冒頭に置かれる。それを受けて「獅子
の城」での意外な逆転劇。ある意味あからさまな象徴と読み取れないだろう
か。そして残るもう1編、「本格推理9」に掲載された「白銀荘のグリフィ
ン」の扱いはどうか。これは徹底的に改稿されて「ケンタウロスの殺人」と
して蘇っている。私としてはこの巻のベストに選んだ作品ではあったが、ケ
ンタウロスという新たなモチーフを持ってきたことや、その後の柄刀のテク
ニックや文章力とあいまって完成度は更に高まっている。       

 そしてその置かれた位置はどうか。直前の「イエローロード」は承前・承
運という副題が象徴するように、本書の第3部のプロローグといった役割を
担っている。最後の「美羽の足跡」は完結の意味付けを行うボーナストラッ
ク。つまりは「ケンタウロスの殺人」こそが第3部の本来の本編だろう。そ
してその探偵役の特徴とは「引き継いだ者」とでも表現出来る。徹底的な書
き直しによりアマチュアからプロへの引き継ぎを完成させてみせたことと、
この探偵役の特徴とが意識して呼応しているように思えてならないのだ。

 以上3編の立ち位置が、氏のアマチュア時代への訣別宣言、あるいは卒業
宣言のような気がしているのだが、この私の読みは外れているのだろうか?

 長くなってしまったが、本書はこの趣向を別としても、不可能犯罪物短編
集としても屈指の出来を誇る。総合的には充分オマケして8点としよう。

 最後に恒例の奴。ベストはロジックから導かれる意外性が光る「イエロー
ロード」 続いては総合力抜群の「ケンタウロスの殺人」 ベスト3最後は
バカミスを作品に結実させる方法が素晴らしい「絵の中で溺れた男」としよ
う。他にも「わらの密室」のミスディレクションや、「獅子の城」の意外性
など素晴らしい仕掛けが一杯。ゲップが出そうなほどの濃厚料理の満足感。

  

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