ホーム創作日記

1/7 六月はイニシャルトークDE連続誘拐

                   霧舎巧 講談社ノベルス

 
「あれ、今回は物理的オマケがないぞ?」 買ってきた後でひょっとしては
ずれを買ってしまったのか、と不安になってしまった。なるほど、こういう
趣向で来ましたか。うんうん、良いぞ、良いぞ。あくまで読者の盲点(?)
を突きまくる遊び心。あと9ヶ月もこの調子でやっていけるのか、不安半分
期待半分ではあるけれど、どうかこのまま突っ走り抜けてください!  

 シリーズとしては、またまた新たな展開を見せて、そういった意味でも興
味が続くところ。開かずの扉シリーズとの絡みも、どうなっていくのか。
博嗣
同様に、シリーズを連携させた意外性の趣向も盛り込まれているのか?
二つのシリーズが同時展開する作品なども現れてくるのか、期待される。

 本作1作のみを取ると、ミステリとしては3作の内では一番弱かったかな
と思う。何より犯人がわかりやすすぎるか。おそらくかなりの読者にとって
早い時点から容易に予想が付く状況なため、緊迫感に引き込まれにくかった
のではないか。比較的ユーモア感も重要視した軽めのシリーズの割には、真
相が重めで後味感があまり良くないのも、シリーズ共通のアンバランス感。

 やはり作品自体のミステリ性よりも、作者が読者に対してどう仕掛けてく
るか、それが最も楽しめる部分だろう。それも作品内部ではなく、外部での
仕掛けだという点が、意外に新しい趣向ではないか。採点としては6点

  

1/14 GOTH 乙一 角川書店

 
 様々な書評で言い尽くされているのだろうが、人間の暗黒面に惹かれる主
人公二人の造型が素晴らしい。また、作者自身がミステリであることを重視
したと語っているように、それぞれには仕掛け型ミステリとしての趣向が施
されている。誤誘導という手法が共通なため、若干飽きてしまう(&読めて
しまう)部分はあるが、各作品毎に手を変えているし、切れ味は鋭い。 

 考えてみれば、デビュー作から一貫して、乙一のミステリとしての構造は
こういう形式を取り続けているのだとも思える。そういう意味でも本作は、
乙一のミステリとしての代表作という位置を確保するに充分だろう。  

 また注目したい点は、これまでにないタイプの乙一作品であるにもかかわ
らず、私が氏の大きな特徴として捉えている”孤独同士の出逢い”が、やは
り重要な役割を果たしていることだ。それもまた、恋愛へと至る道は閉ざさ
れている。それとも歪んではいるが、これは恋愛譚と考えてもいいのか?

 しかし一貫してこういう物語を紡ぐからには、やはり作者自身の孤独性や
恋愛観がどこか影を落としているのだろうな、というのはうがち過ぎかな。

 ミステリとしての仕掛けと、ある動機の意外性とがぴったりとマッチして
いる「リストカット事件」がベスト。ミステリとしては弱めだが、作品とし
て重く響く「土」と「記憶」でベスト3とする。採点はやはり7点進呈。

 ところであまり知られていない気もするが、乙一自身のサイトの嘘まじり
(笑)日記、最高に面白い。氏の豊かな才能が毎日ほとばしっている。特に
乙一の後書きが好きなんだって人は必読! 私は毎日チェックしてます。

  

1/17 さみしさの周波数 乙一 角川スニーカー文庫

 
 こういう切なさ系においても、意外性を盛り込む手法を取ってくる氏だが
今回はその点を重視した作品は少なかったかな。どういうラストに持ってい
くのかなと思わせておいて、結局はそのままなのかという感じで終わってし
まったような作品ばかりという印象が残った。            

 とはいえ別に乙一作品に意外性やミステリ的仕掛けは不可欠というわけで
はない。あくまで手法の一つに過ぎないだろう。一種の氏の”照れ”として
の表現ではないかと私は思っているし。それがないことでかえって奇をてら
わずに、ストレートに胸に沁みる話もある。たとえば本書の中では「失はれ
た物語」がそれにあたるだろう。個人的には、東野圭吾の「秘密」を読んだ
ときの、胸が痛くなるほどの重みを思い出させてくれた。辛すぎる佳作。

「未来予報」もあったかもしれないもう一つの物語を、同時に読んでいるよ
うな気がしてやはり沁みる話である。乙一らしい、恋愛に至ることの出来な
かった、孤独同士の出逢いを描いていると言える。「手を握る泥棒の物語」
は比較的爽やかな作品で、これが一番好きな人もきっと多いことだろう。

 今回の採点は6点。しかしこの表題、絶対に乙一が考えたものではないよ
なぁ。編集者やりすぎ!って思ってしまったのは私だけではあるまい。さて
あとがきで予告されてるJOJOのノベライズはいつ出るんだろうなぁ?

  

1/22 虚空の逆マトリクス 森博嗣 講談社ノベルス

 
 森博嗣の短編集はつまらないというのが定番なのだが(断言失礼!)、や
はりこれもご多分に漏れず。思わせぶりではあるけれど、どうってことのな
い作品のオンパレード。今回は宿題らしきものもないので、ネタバレ無しで
全作品の一言感想など。採点はいつもの短編集と同じく、低レベル6点

「トロイの木馬」は「21世紀本格」の一編。ネタ自体はありがちではある
が、新しい手法の可能性はほの見える。「赤いドレスのメアリィ」は定型。
「不良探偵」はそれなりにいいお話。「話好きのタクシードライバ」 オチ
ないんかい! まぁ定型のオチを持って来られても白けるけど。「ゲームの
国」の回文は凄い! けどそれだけ。「探偵の弧影」ってあの映画だよね。
「いつ入れ替わった?」は藤原宰太郎のクイズ本的な、たわいなくリアル性
薄いトリック。けど、S&Mキャラ萌え派にとっては衝撃的なラスト?!

 ところで今更ながら一つお詫び。「今パラ」ネタバレ解説でのぷるぷるの
項目。二つのシリーズの四次元的構造を考えると、私の解釈は間違ってまし
たね。解読は正しいけど。これもまた例の長編と同じ趣向だったとは。あの
お方もようやるよね(苦笑) ところで巻末予告の「四季」ってやっぱり?

  

1/24 フレームアウト 生垣真太郎 講談社ノベルス

 
 わかりにくいったらありゃしない。最後の「暗闇で… アウト・テイクの
断片」がなければ、それなりに普通のミステリで終わったんだろうが、これ
があることで全てがひっくり返ってしまう。勿論、これこそが「メフィスト
賞史上最大の挑戦」なわけだから、無くすわけにはいかないんだろうけど。
しかし、それにしては、あまりにもわかりにくいんじゃないかな。   

 新しい試みに挑戦する気概は素晴らしいと思う。本格ミステリのそういう
部分こそ、最も愛すべき要素だと思うし。最後の最後に全てをひっくり返す
なんて、そうそうやれるもんでもない。でも、その場合はやっぱり「ああ、
そうか!」って言わせて欲しい。細かい検証は後回しとしても、その時点で
その逆転の構図がすきっと見通せるもの。逆転型本格のカタルシスってきっ
とそこにあると思う。「あっ、そうか!」 やっぱりこれでしょ。   

 この感覚が本書には決定的に欠けている。この構図ならば今までの違和感
がすっきりと解消されるとか、あの描写はたしかにこれだったら納得がいく
とか、そういう要素がにわかには浮かばなかった。翻訳調の文体も好みでは
ないため詳しい検証は行っていないが、ぱらぱらとめくり返した限りでは、
この結末の必然性を見つけることは出来なかった。逆に矛盾点の方が目立っ
てしまう。逆転前の結末の方が、よほど自然で無矛盾のように思えるのだ。

 やはり仕掛けとしては、失敗作の部類に入るんじゃないかと思う。本格の
意識がそう高い人ではないのかな。採点はやはり低めの6点としよう。 

  

1/26 Q.E.D13巻、14巻 加藤元浩 講談社

 
 13巻のカバー裏を見ると原作者はいないとのこと。まさか個人で頑張っ
ていたとは。それでこのレベルで書き続けられるのは、なかなか凄いことだ
と思う。砂漠で奇跡の雨を待つ男、たしかにそんなもんなんだろうね。 

 13巻は平均レベルの作品が2作。新しいサブ・レギュラーのビル・ゲイ
ツもどきが登場。無茶苦茶に金をかけた仕掛けが、今後簡単に組めるという
意味で楽しみかも(って、今までもそういうのあったような気もするが)

 14巻の「夏休み事件」は作品自体よりも、最後の2頁の展開がなかなか
珍しい。「イレギュラーバウンド」はシリーズ中でも上位の佳作。ラジオと
TVの違い、ミス・ディレクション、被害者が目を覚ませば事件は迷宮入り
するという逆説的言辞、人情物としての展開、と総合的に良くできている。

 採点はどちらも6点。上記に示したように、14巻の方が上位だ。  

  

1/27 QED竹取伝説 高田祟史 講談社ノベルス

 
 そうそうこれこれ。やっぱりQEDシリーズの現実事件側はこうでなくっ
ちゃ。歴史物の常として、現実の方の比重が低くなるのはしょうがないとし
て、それでも一貫して同じ趣向を貫こうとしているのは、非常に好感が持て
る。この路線をとことん突き進んで欲しい。動機等に不満が残ってはいるが
トリックとしては今回はシリーズ中でもすっきりと決まっている方だろう。
現実側としてはポイントを稼いだのではないか。           

 歴史側の方も、まだこんなネタを持っていたのかと驚かされる内容だった
と思う。中途までは二つのキーワード(物語と土地)の関連性に、それほど
の説得力が感じられなかった。しかし、最後に示されるビジュアルのイメー
ジ、これがわかりやすくて全てを救っている。            

 この瞬間的なわかりやすさが、やはりポイントだと思う。「百人一首」
「六歌仙」は練られてはいるが、一瞬でぱっと見通せる趣向ではない。一方
「式の密室」はこの感覚が優れている。一つ一つ検証を進めていく前者もい
いのだが、後者の方がミステリとしてのケレンに溢れていて楽しい。  

 これと呼応するかのように、前者よりも後者の方が説としての新し味も感
じられたのだが、この辺は人それぞれの感じ方があるかも知れない。  

 現実側、歴史側双方のバランスが取れていて、テーマも王道。シリーズの
代表作にふさわしい作品ではないかと思う。但し、中盤の説得力がもう少し
欲しかったため、採点としては7点を躊躇して高めギリギリの6点。ところ
で真相の連繋があるので、本作より先に「式の密室」を読んでくださいね。

  

1/31 金田一耕助の新冒険 横溝正史 光文社文庫

 
 長編の原型短編ばかりを集めた作品集。といっても黒函の横溝正史全集全
10巻を横溝体験の基本としている私にとっては、これらが長編化されたも
のはほとんど読んでいない。読み比べなど出来るはずもない。それに長期的
記憶槽に欠陥がある人間にとっては、たとえ読んでいてもとても覚えていら
れない。そういうわけなので初読の短編集というのが、正直なところだ。

 さて久しぶりに横溝の短編集を読んでみると、意外にストーリーの人だっ
たんだなぁ、という印象を受けた。それなりに昔読んではいても、やはり一
般的なイメージであろう封建的な一族の因縁話という、比較的画一化された
ストーリーだという刷り込みがされていたようだ。本書を読むと、時代的に
通俗味がかった要素は大きいものの、それぞれに工夫されたストーリーが描
かれていて、エンタテインメント性でも優れた作家だったことがわかる。

 恒例のベスト3は、中でもストーリー性が出色の「死神の矢」、自動車に
関するロジックが読み所の「百唇譜」、ストーリーとトリックのバランスが
優れている「青蜥蜴」の3作としよう。採点はごく普通の6点。    

  

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