ホーム創作日記

3/1 クビキリサイクル 西尾維新 講談社ノベルス

 
 最初はどうなることやら、とかなり不安な心持ちにさせられてしまった。
繰り返しを多用する文章がくどかったり、「天才」って言葉を使いまくるだ
けで、さっぱり「天才」らしく見えないなんてところは、表現力の未熟さ故
だろうから、私の評価の範疇にはない。しかし、ミステリとしては、こんな
んを「密室」って言い張るかぁ?な単純な事件を延々と引っ張るところは、
かなり気になってしまった。メフィスト賞作家にありがちな、「この人あん
まりミステリ読み込んでないよな」な匂いがひしひしとしたのだ。   

 しかし、そんな私の不安は、いい意味で裏切られた。意外にも、ミステリ
として非常に計算された構成を持っていたのだ。複数段に分けて発射される
ミステリ・ロケット。なかなかに粋で小憎らしい演出であるし、気が利いた
趣向が幾つか盛り込まれている。意外性にもきちんとつながってるし。 

 残念ながら、上記の表現力不足で、キャラ的心理的な説得力が弱くて、凄
みにつながることはないが、ミステリの基礎体力は持っている人だと思うか
ら、是非次作も読んでみたいものだ。                

 しかし、キャラ萌えを狙ってそうな割りには、キャラクタの魅力(特に主
人公二人)は全く出てるとは思えない(読んだ皆さん、魅力的だと感じられ
ましたか?) 同人誌じゃないんだから、あまりあこぎなキャラ立てに走ら
ないで欲しい。空回りする霧舎のラブコメの轍を踏まないように(苦笑)

 昨年は7点を付けた作品が極端に少なかったから、今年はちょっと奮発気
味でいこう。というわけで、例年なら6点だろうけど、ギリギリ7点進呈。
若さを考慮に含めた期待点込みね。キャストを一新した次作を希望!  

  

3/6 名探偵はもういない 霧舎巧 原書房

 
「なんだ、霧舎ってば、こんな作品も書けるんじゃないのぉ?」 読了後の
私の第一声。あかずの扉研究会のキャラ設定、鼻につきまくるラブコメと、
トホホな部分に怖気がして(嫌気程度ではすまなっかたりもするのだよね)
1作目で止めている方も多いと思うが、本作はかなり安心印のお薦め作品。

 もともと大技よりは小技に長けていて、本格センスもかなりいいものを持
っていると私は評価しているが、今回は論理にも気を遣っていて好感度大。
氷川ロジックに見られる、じょうろの穴を一つ一つ押さえていくような「水
も漏らさぬけど、ひつこいってばぁ」な論理じゃなくて、うんうんと納得さ
せてくれる、水の流れを追うような素直なロジックで、気持ちよく堪能出来
た。作者の言葉にあるように、今回は堂々と新の付かない”本格”   

 ついでのように一つ、新っぽい面白い狙いもあるのだけど、これは説明さ
れないとわかんない。彼の場合、そういうのが多いので、まあご愛敬。 

 しかし特筆すべきはやはり、なんか嫌な感じで終わりそうだなぁ、という
中途の不安を払拭させてくれる爽やかな結末だろう。なんだよぉ、清々しい
じゃないかよぉ、霧舎、やるじゃん。今年は大盤振る舞いで行くことにした
ので、採点はなんと8点進呈!本年度のマイベスト5には当確だろう。 

 見損なってました。私が間違っていました。どうかこれを契機に、すっぱ
りと「あかずの扉」シリーズ止めて、新シリーズを始めてください!  

 というところに入ってきたニュース。なになに、4月の密室本は霧舎で新
シリーズ突入とな。ほ〜、ふむふむ、え〜と、謳い文句付いてるぞ、、、、
「新本格ミステリ×ラブコメ」...なんだと!霧舎、まだやるか(笑)!

  

3/12 「クロック城」殺人事件 北山猛邦 講談社ノベルス

 
 悪くも悪くも”メフィスト賞”、といった作品だろう(良くも悪くも、で
はないよ) 改めてこれがミステリの賞ではなく、広義のエンタテインメン
トに与えられる賞であることを、否応もなく再認識させられてしまった。

 本作は、ミステリ的にはワンアイデア・バカミスである。金田一クンの某
作品の笑撃密室トリックを思い起こさせてくれた、久々のへなへな脱力系の
バカトリックである。しかし、やっぱり迂闊にも(?)笑ってしまったから
には、それだけで6点確保としよう。苦しいとは思うけれど、変な首切りの
理由という珍しさもあるし。しかし、編集部が袋とじにしたがった気持ちは
よぉくわかった。凄いから、というよりは、やむにやまれぬ、が近い?パラ
パラしちゃった読者がいたら、本書のミステリ的趣向が一目だもんね。 

 で、ダブル”悪くも”の部分だけど、今更の世紀末的世界観と思わせぶり
な設定が、全然収束し切れてないばかりか、ミステリと全然分離しちゃって
るところにある。功罪共に大きいメフィスト賞の、特に”罪”の部分が象徴
的に表れている作品だと私は感じてしまった。本質的に危うい方向にミステ
リを変容させる可能性を、非常にわかりやすい形で示しているように思う。

 変な話を思い付きました。ミステリ的アイデアを思い付きました。くっつ
けました。一丁上がり。本書の本質的な成立背景は、そうだと感じられた。
しかも主従のうち、主は”変な話”側にある。ミステリは必ずミステリが主
でなければならない、とまで主張するつもりはないが、どちらから派生する
にしろ、少なくとも融合した完成型として読者の前に提示して欲しい。 

”単純な”ミステリでは、賞を取れない。しかし、ミステリとしては膨らま
しきれない。だから、違う方向に膨らます。こういう安直な方向性に流れた
作品が多いと思う。そしてそれが”広義のエンタテインメント”というお題
目の元に許容されてしまう環境を、メフィスト賞が産み出していると言える
のではないか。これがミステリとして危険な状況にあると、私は危惧する。

 論として敢えて極論じみて書いてみたが、そういう傾向が少なからずある
と考えているのは事実である。”単純な”という表現ではなく、”純粋な”
ミステリという心意気でもって勝負する作品を、私は切望している!  

  

3/14 ホームズ2巻 久保田眞二 集英社

 
 非常に注目していた劇画のシリーズ2巻目。しかし残念ながら、1巻に比
較しては、質は低下していると言わざるを得ない。前作で最も評価していた
2段階の構成は、今回は全く見られないのだ。確かにずっと続けるのは高す
ぎるハードルかも知れないが、せっかく確立してきた手法なのだから、無理
をしてもせめて1巻に1〜2話くらいは入れて欲しいものである。   

 内容的には、ホームズ譚らしくないダークさが、やはり気になるところ。
トリックも殺人事件にしては(という言い方も少し変だが)、ちょっと大袈
裟過ぎる感触もある。そういう面で語られることはそう多くはないが、意外
にトリックメーカーだったとも言える、ドイルのパスティーシュだからとい
う言い訳も成立するのかも知れないけれど。             

 評価してたポイントがなかったという落胆故に、他のアラまで目立ってし
まったのだろうか。しかし、聖典とはニュアンスが違うものの、独特の雰囲
気は持っている。初登場のモリアーティも、やってることはイメージ違うが
雰囲気はなかなかのもので、これからの展開に興味をつなぐ。     

 今回は6点が精一杯だが、また2段階の構成を復活させて、トリックの複
雑性ではなく、単純な効果を狙ったものになってくれれば、もっとミステリ
読みに薦められる作品になる可能性は高いと期待している。      

  

3/14 秘密1巻 清水玲子 白泉社 

 
 もひとつコミックス。2話収録の内の1話目は既刊「WILD CATS
1巻」に掲載されているもの。それにも関わらず、こうして大判サイズで出
てしまうと云うことは、それだけ評判が良く、出版社も強く推している作品
であることは明らか。そして、嬉しいことに、たしかに出来が良いのだ。

 まず設定が抜群。死者の脳を活性化させることによって、その死者が見て
きた光景を数年前まで遡って再生が出来る、というものだ。日本の古典本格
短編の一つに、死者の眼球から、死ぬ瞬間に網膜に焼き付いた映像を取り出
して犯人を暴こうとする、というアイデアの作品があったと記憶しているが
それをSF的に展開させたような設定である。            

 男性の本格ミステリ作家ならば、ここから物理的なトリックに発展させて
作品を仕上げるところだろうが、清水玲子は女性マンガ家らしく、心理的な
綾という方向性で実に巧みに描いてしまった。特に1作目の”視線”の扱い
方は、ちょっとゾクゾクしてしまうぞ。               

 ミステリを期待すると物足りなさはあるのだけど、これはこれで充分に楽
しめる作品に仕上がっている。清水玲子自身、ジャック&エレナシリーズな
どサスペンスやミステリの香りのする作品が多く、また間欠的なシリーズと
して大事にされそうだし、そんな期待点を含めて採点は7点。ミステリ作家
とのコラボレーションとかあると、傑作が生まれそうなんだけどな。  

  

3/18 放課後の殺人鬼
恩田陸小林泰三・新津きよみ・乙一 角川スニーカー文庫
 
 泡坂さんが含まれた「密室レシピ」が出るというので、その前に既刊2冊
を読んでみることにした。まずは先に見つかった2巻目の本作から。ミステ
リ・アンソロジーと名付けられた本シリーズだが、この巻は完全にホラー。
気色悪いよぉ、読むんじゃなかったよぉ、と半ベソになろうかと思っていた
のだが、最後の乙一「SEVEN ROOMS」にやられた。     

 オチはないのだが(何故求める?(笑))、このサスペンス、この緊張感
に身が締め付けられる。いたたまれないほどに異様な設定が凄い。息を止め
たままの読書体験と言っていいくらいのスリルを感じさせてくれた。カタル
シスの無さ加減も計算づくか。文句なく本書のベスト。        

 それに続くのが恩田陸。一読後、なるほど放課後の殺人鬼だったなと得心
がいく。後の2作はあまり感心できなかった。小林泰三は、全くカタルシス
の無い意外性で救い無さ過ぎ。読むんじゃなかったという思いを抱く。新津
きよみは、そもそも放課後の殺人鬼じゃない。存在意義を感じなかった。

 乙、恩田はいいことはいいが、やはりホラーは苦手だ。どっちかと言うと
読まずに済ませた方が自分のためだった。一応、客観的に採点は6点。 

  

3/16 名探偵はここにいる 
太田忠司・ 鯨統一郎西澤保彦愛川晶 角川スニーカー文庫

 
 続いては1作目に戻っての本書。今回はさすがにホラーじゃないんで安心
して読めます。但し、内容的に安心して(というか信頼して?)読めるかど
うかは別だということで。と、言葉を濁していることから推測できるだろう
が、あまり面白くはなかったというのが正直なところ。        

 最も期待していた愛川晶の根津愛シリーズ番外編「納豆殺人事件」だが、
やっぱり苦しいと思うよ。”だけ”ってのは、ちょっとあんまりじゃない?
しかし、それでも一応本書のベスト。                

 続いては鯨統一郎。事件自体の面白さはあまりないが、なにせ正真正銘の
安楽椅子探偵にはちと笑っちゃったので。シリーズ化するつもりかな? 

 残り2作。ミステリ的には悪くない西澤保彦だが、この意地悪過ぎる幕切
れの仕方に読後感最悪。悔恨と和解のチャンスを作ってあげて、爽やかなラ
ストにして欲しいものだ。本書の対象はティーンだろうから余計に。  

 太田忠司は単純。こういうフリならこういう真相だろうという、そのまま
王道でいっちゃった。対象に合わせて、わかり安い作品にしたのかな? 

 以上、採点は底辺すれすれの6点。あえて手を出す必要のない作品集。

  

3/30 新・本格推理02 二階堂黎人編 光文社文庫

 
”02”と銘打たれたからには、あと8年は続けるつもりなのだな。しかし
さすがにあと98年も続けるつもりはないらしい。そりゃそうだろ(笑) 
それとやっぱり”・”はどうしても必要らしい。個人的には”・”の位置を
変えて「新本格・推理」と「新・本格推理」の2本立てでもいいんだけど。
前者にはいかがわしい(?)作品ばかりを集めてさ。当然2冊とも買って、
絶対に前者から読むな、うん、間違いない。             

 などという戯れ言はともかく、やはり前回同様、ワンアイデアのみではこ
の長さは成立せず、相応の実力が必要とされる読み応えのある作品が集まっ
てきた。読者諸氏を瞠目させるほどの作品には相変わらず出逢えないが、そ
こそこ満足させ得る内容にはなっているのではないか。        

 本巻のベストは「窮鼠の悲しみ」 本格偏愛派の私がこういう社会派な作
品を推すことはまずないのだが、実力を認めざるを得ない出来の良さ。私が
追いかけたくなる作風ではないが、いずれ世に出る人なのだろう。続いては
「湖岸道路のイリュージョン」 完全なるトリック小説。このトリック構築
力は凄い。「消失トリック」という原題のままでもいさぎよくて良いかも。
最後は「ジグソー失踪パズル」 二階堂氏の主張もわかるが、これはやっぱ
りオタク探偵でいいと思うよ。おもちゃオタク探偵シリーズ、ちょっと読ん
でみたいもの。二階堂氏大絶賛の「『樽の木荘』の悲劇」は、今回はほとん
ど読み切れてしまう内容だったので選外。「月の兎」もバニーガール探偵に
はくらくら来たのだが(笑)、名前の件を始めとしてわかりやす過ぎた。

 まだまだ採点は6点。ほんとに目が覚めるような作品を読んでみたい。

  

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