ホーム創作日記

6/1 シュロック・ホームズの迷推理   
      ロバート・L・フィッシュ 光文社文庫

 頭の収録作を見て、ついこれまでの傑作選だと思い込んでいた。まさか既
刊2冊の後に続く、残り全作を収録した作品集だったとは。取りあえず解説
を読んで助かった。買い損ねていたら、思いっきり後悔していただろう。

 シュロック・ホームズは、ホームズのパロディとしては、おそらく最も有
名なシリーズ。『〜の冒険』『〜の回想』の2巻が、もうかなり以前に早川
文庫より出版済み。駄洒落が中心であるから、若干日本人には馴染みにくい
部分もあるものの、初対面の依頼人に対するお馴染みの推理の絶妙な外し方
や、単純な事件(もともとは事件ですらない場合も多い。勿論このホームズ
が関わり合うことで、事件にはなってしまうのだが)が、ひねくれ回った推
理の挙げ句、とんでもない結果をもたらす様は、ブラックな味わいなのに、
意外に爽やかな感じすらある皮肉なユーモアで絶品。         

 純粋な出来としては、前2作には及びようがないが、こうして全作品が読
めるようになったのは大きな収穫。その意味合いを加味して、採点は7点
ただ、言語や制度などの違いで、すっきりと納得しにくい作品もあるので、
訳注や編集部注が付いていると良いんだけどなぁ。          

  

6/7 悪霊の群 高木彬光山田風太郎 出版芸術社

 
 この本をどれだけ待ち焦がれていたことだろう。私が最も求め続けていた
のは、本書と鮎川哲也『白の恐怖』だったのである。この本がやっと再出版
されることを知って、どれほど嬉しかったことか。「涙が出るほど嬉しい」
を文字通り身体で表現しそうなほど嬉しかった。(ちなみに『白の恐怖』は
日本ミステリ界を大きな悲しみが襲った際には(失礼御免)、未完の『白樺
荘事件』と是非カップリングして出して戴きたいものである)     

 そう、『悪霊の群』である。日本を代表する作家の競作であると同時に、
日本を代表する名探偵の競演。ああ、くらくらしてしまうではないか。 

 実は出来は余り良くないと聞きかじっていたのだが、とんでもない、素晴
らしい出来じゃないか。たしかに日本で一時期流行した連作のように、通俗
スリラーみたいな展開なのだが、終盤一気に畳みかけるように、本格へとス
ライドする、その見事なまでの真相の解明。そして更にどんでん返しの目眩
まし。探偵登場のケレン味と、ラブストーリーのエンディング。    

 この本が読めただけでも幸せ至極なのに、それにもましてこの内容。まさ
に至福の逸品。当然8点付けさせてもらいましょう。『赤い密室』『青い密
室』
で、あの幻の『呪縛再現』を読ませてくれたり、出版芸術社様、本当に
ありがとうございます!これを読んでいる高木ファン、山風ファンはもう義
務。買ってください。いや、買いなさい!それ以外の方もどうか是非。こう
いう本が売れると、もっともっと幻の作品の発掘に熱が入るはず。素晴らし
きミステリに触れるために、どうか協力し合おうじゃないですか。   

  

6/13 ウェディング・ドレス 黒田研二 講談社ノベルス

 
 残念ながら、かなり早い段階で構造自体はすっかり読めてしまったので、
その辺や犯人まわりの意外性はほとんど感じることが出来なかった。せっか
くのアイデアなのに、微妙にずれていく酩酊感を演出できていないのが、非
常に惜しいところだ。いきなりあまりにも食い違ってしまうのでは、多少読
み慣れた人ならば、不思議な感じを味わうことも出来ぬまま、ネタ割れして
しまうのではないかと思う。                    

 と、まあ、厳しい評価はここまでとしよう。たしかに上記のように、わか
ってしまう部分は大きいのだが、様々な伏線の張りつめ具合は、堂々とした
もの。さすがにミステリをよくわかってらっしゃる。そして、その謎解きの
果てに現れる、爆笑の真相。そう、このハウダニットにはぶっとんだ!バカ
オオバカ、なんとたのもしいオオバカ野郎なんだ!          

 作者であるくろけんさんのウェブ・ページ「ミステリ博物館」は、ミステ
リのページとしてはおそらく最良のものだと私は思っている。中でもその書
評はかなり共感できる内容のもので、そこから判断して、自分と同じくちゃ
んとしたオバカ(複雑な表現)が好きだとは思っていたけど、いやあ、きた
きた、きた〜〜!もう、これだけで8点付けてしまいましょう。    

 ほんっと、この先も楽しみ。大型(オオバカとルビふりましょう)トリッ
クメーカーの誕生に、心より祝福を!                

 でもね、くろけんさん、このトリック、さすがに警察でばれるって(笑)

  

6/22 タラント氏の事件簿 C・デイリー・キング 新樹社

 
 まさに不可能犯罪だけに覆い尽くされた短編集。それぞれの解決は実はシ
ンプルで、真相の予測が付くものが多いのだが、道具立てや怪奇趣味、雰囲
気など不可能犯罪好きを魅了してやまない。特に謎の設定へのこだわり方は
尋常ではない。ここまで凝りに凝ってくれると、嬉しい限りではないか。

 久しぶりに恒例のベスト3を選んでみよう。ベストは『釘と鎮魂曲』。こ
の裏のかきかたには驚かされた。ミステリファンの心理を逆に突く企み。描
写だけではピンと来ないので、是非見取り図付きで読みたかった。   

 次点は『「第四の拷問」』と『消えた竪琴』。どちらも真相は予測できる
のだが、前者はその徹底的な謎の構築へのこだわりぶりに感動。理想的なま
でに魅力的な謎が美しい。後者は謎の設定にもまして、スリリングな展開と
謎解き、ショッキングな幕切れに至るまで、完成度は本書随一。    

 本書を通じて長編を構成するかのようなキャラクタの発展があるので、ミ
ステリを逸脱する最後の短編の効果も生きている。とにかく本書は、不可能
犯罪に心惹かれる者”だけ”に向けたとさえ言える作品集。採点は7点。と
ころで、『海のオベリスト』はまだですか、国書刊行会様?      

  

6/26 安楽椅子探偵・再び 綾辻行人有栖川有栖 ABCテレビ

 
 昨年の10月の第1回から半年後のこの5月、再び安楽椅子探偵が帰って
きた。いや、”安楽椅子”探偵としては、初めてなのか?(見た人にしかわ
からないだろうな。かなり笑えたネタ)               

 今回も前回同様の構成で、問題編は結構シリアスだが、解答編は全編ギャ
グで楽しませて(?)くれた。そして勿論今回も映像ならではのトリックが
盛り込まれている。但し、前回ほど視力を酷使するトリックではないし、そ
の他の部分でも本格性の要素が高まっている。意外性の要素を排除する代わ
りに、まともに謎解きに徹した感があって、総合的には1作目より良い出来
だと思う。ある程度の正解に辿り着けた視聴者は、ちゃんと「推理した」と
いう満足感が得られるであろう作品であった。前回と違って(笑)、今回は
真剣に取り組んでも、「そりゃないよなぁ」と思わずにすむだろう。  

 とはいえ、有栖川はやっぱりこんなネタ(ちと溜め息)。明らかに有栖川
だよなぁ。まぁ、普段からミステリを読み慣れている人が対象ではないので
こういうクイズネタになるのも仕方ないかもしれないけどね。お得意の安直
ネタを考え中に、文章では表現しにくいネタをストックしていたのかな。

 しかし、やっぱり全国放送して欲しいなぁ。3回目もやるみたいだし。

  

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