ホーム創作日記

4/7 かくして殺人へ J・ディクスン・カー 原書房

 
 別冊宝石版で一度読んではいるのだが、そちらは実は抄訳。今回初めて完
訳での登場となる。映画界というカーの中では異色の舞台であるのだが、そ
こで展開されるのは、いかにもカーらしいロマンスと、またまた意地の悪い
(?)ミスディレクション。カーのやり口を熟知しているファンならば、予
測も付くし(おそらくは)許せると思うのだが、そうでないと下手すると、
”卑怯”という印象すら抱いてしまうかも知れない。         

 舞台が舞台だけに、今回はお得意の怪奇趣味も出てこず、カーの作品群の
中では異色作の部類にはいるだろう。全編を覆うユーモア感とラブコメ風ロ
マンス、更に題名に通じる張り巡らされた伏線は、なるほどカーだと思わせ
てくれるが、正直に採点するならばカーの中では中級の下あたりか。同時期
に書かれた『九人と死で十人だ』に比較しては、残念ながら出来は落ちる。
ただし、完訳された喜びを大いに加味して、採点は勿論8点である。  

 しかし、映画界に対するカーの皮肉と来たら(笑)。評伝から、ロースン
への手紙を抜粋すると「連中は頭がいかれてるよ、あのくそったれどもはひ
とり残らずだ。かごいっぱいのまぬけどもよりもっとおかしい。私がまだ理
性の痕跡なりともなくさずにいるのが不思議なくらいだ」とある。ミスター
アーロンスンも、意外に笑い話だけとは限らないのかも。       

  

4/18 UNKNOWN 古処誠二 講談社ノベルス

 
 メフィスト賞に異変あり、で端正な本格だとか、たしかにその看板には偽
りはあるまい。しかし、端正と評される作品が多くそうであるように、いか
んせん小粒感は否めない。                     

 一昔前なら、間違いなく乱歩賞への応募を目指す作品だろう。経験者にし
か見えない、一般人の知らない舞台。社会性を内包したテーマ、動機付け。
現代的にアレンジされた密室。まさに乱歩賞好み。盗聴だけで持たすには弱
いので、事故による殺人などへとエスカレートさせるだろうけど、その場合
にもこの端正さを生かし切れるかどうか、作者の腕が更に問われるところ。

 しかし、これがこういう形(メフィスト賞)で出てくるのが現在のミステ
リ・シーン。敷居の低さ(と言い切るのもなんだが)は、当然デメリットが
皆無ではないのだけれど、多少(多々?)荒削りでも、なんらかの輝きを持
った作品に出逢える可能性は高く、個人的には大いに評価している。  

 ただし、この作品に対しての評価は別。小粒感に大いにつながるのだが、
やはり”密室の解法”としては物足りなさが強く残る。二つのアイデアの組
み合わせとは云え、中心となるアイデアは”日常の中の軽〜い思いつき”程
度の内容。知られざる自衛隊の内情がわかるんだよという面白味もあるんだ
ろうけど、あまり興味はない(苦笑)ここの興味の強弱で、評価は別れるだ
ろう。この探偵役を再起用しての話もまだ出来そうだけど、大化けはしそう
もないし、おそらく私は2作目は読まないだろう。採点は平々凡々の6点

  

4/27 ぶたぶた 矢崎存美 廣済堂出版

 
 某MLにて一大ブームが巻き起こっているのである、『ぶたぶた』  

 あるときは殺られ屋、またあるときはタクシードライバー、ベビーシッタ
ー、一流シェフと、毎回違う職業で登場してくるぶたのぬいぐるみ”山崎ぶ
たぶた”。ぬいぐるみだけど生きているぶたぶた。実はおやじなぶたぶた。
なんだか人生を知っているぶたぶた。でも、やっぱり見かけは可愛いぞ、ぶ
たぶた。そのぶたぶたに関わっていく人達それぞれの物語を描く短編集。

 流行り系の言葉を使うならば、まあ”癒し”の物語と言えるだろう。”す
ごくいい話”が詰まっているわけじゃない。”いい話”なのかどうかも、実
はよくわからない。各話の主人公達はぶたぶたと出会うことで、ぶたぶたに
働きかけることで、いつの間にか自分の心に空いていた小さな空間に気付い
てく。そして勿論、その空間を埋めてくれるものにも。ほんわかとかすかな
温もりをもった、ほんのりと桜色に心染まる、ちっちゃな物語達。   

 こんな話、別にいいじゃないか。こんなキャラクターなんて、別にいらな
いやい、、、と言いたいのに、どうも言えないようだ。結構気に入ってしま
ってるんだろう。くぅーっ、なんだかちょっと悔しいけど。      

 好きな話は『追うもの、追われるもの』『殺られ屋』。自分は普段下を向
いて歩いてるってこともあるし、さ。採点対象作品ではないので、採点は控
えるが、一つだけ。あなたもぶたぶたに出会ってみたい気はしませんか?

  

4/30 Q.E.D6巻 加藤元浩 講談社

 
 相変わらずの番外編『ワタシノキオク…』と、スカイダイビング中という
空中の密室に挑んだ意欲作『青の密室』の2編。           

 番外編はいつもながらどってことない出来なので感想省略。しかし、『青
の密室』には唸らされた。前巻の『光の残像』同様、思ってもみなかったほ
どの、意外な解決が待ち受けている。                

 ミステリというものは、謎が出た時点で、だいたいどの程度の解決がそれ
にもたらされるか、結構わかってしまうもののように思う。「こんなもんだ
ろう」とたかをくくっていると、予想レベルを大きく越えた、意外や意外な
真相が飛び出してくるのだ。これを上手いと見るべきなのか、勿体ないと見
るべきなのか難しいところではあるけれど、逆パターン、つまり「凄い解決
が待ち受けてるんじゃないかと思えたのに、肩すかしな真相が待っていた」
というものよりは(ああ、そういう作品は多いのだ、実際のところ)、遥か
に良いということは間違いないところだろう。            

 このレベルの作品が出てくるのだから、これはやはりこのシリーズ、読み
続けなくてはならないだろう。2作ともこの出来の作品が出てくるのなら、
喜んで7点を付けられるのだが。6点にはするが、良質の一品であろう。

  

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